題詠100*2018(現代仮名遣いを試みます。)2018-001:起 たとえれば「結」の中ほどあたりなり わが人生の起承転結 2018-002:覚 昼寝より覚めて一瞬迷いこむ「事実」と「まこと」の間の世界 2018-003:作 冷蔵庫をざっと見まわしとりかかる整理をかねた創作料理 2018-004:いいね 夫の言う「いいね」はときに「うるさい」の意味を持ちたり核の部分に 2018-005:恩 恩恵を被らないのが幸せと払い続ける種々保険料 2018-006:喜 喜びの色に輝く日照り雨一粒ずつに虹を宿して 2018-007:劣 成績に優劣ありしが七十をすぎてしまえば「みんなおんなじ」 2018-008:タイム 設定をまめに切り替え自在なり心の中のタイムマシーン 2018-009:営 オバアチャンの営業時間終了と乳児をママにしっかり返す 2018-010:場合 いつだって頑張りすぎて心配だ 真面目すぎたる君の場合は 2018-011:黄 新しき黄色いシャツによりてくる今忙しき秋のミツバチ 2018-012:いろは 「手始めは皿洗いです」母親が子らに教える料理のいろは 2018-013:枝 朝風に枝しなやかに揺らせつつ萩の小花がひらきそめたり 2018-014:淵 つもりても淵にはならず 我が恋は年経て広き湖(うみ)となりたり 2018-015:哀 哀しみは一拍置いておそい来る はじめのショックが収まるころに 2018-016:掘 掘りごたつ、干し芋、みかん、熱いお茶 わが郷愁の日本の冬 2018-017:ジュニア しなやかな体をそらしフィニッシュす伸び盛りなるジュニア・ゴルファー 2018-018:違 違法ではないとは言えど狭き地に九階建てのマンションが建つ 2018-019:究 研究に結論がでる日の近し あまたあまたの実験の後 2018-020:和歌山 和歌山の熊野古道を歩きたり 木漏れ日ゆれる細きトレイル 2018-021:貫 こころざし貫きたるか久々に逢いたる友は医師になりおり 2018-022:桐 亡き母の嫁入り道具の桐箪笥息子の妻の宝となりぬ 2018-023:現 現在の悩みは裡にとどめ置き過去になるまで猫にも言はず 2018-024:湖 ウイスラーのロープウエイから見下ろせる氷河湖二つ碧に光る 2018-025:こちら 誘惑は気持ちの隙を突いてくる「こちらの水はあまいぞ、ほたる」 2018-026:棄 勝つ見込みなくて試合を放棄する やけに大きい今日の夕陽は 2018-027:鶴 元旦の床の間をいつも飾りいき丹頂鶴の絵入り掛け軸 2018-028;帰 「ただいま」も「お帰りなさい」も上の空 もうおしゃべりがはじまっている 2018-029:井 手仕事に口のほぐれる気安さか 井戸端会議に本音ちらほら 2018-030:JR JRが省線なりし日ころ動物園には三毛猫もいた 2018-031:算 算数が数学になりお習字が書道になりて思春期が来る 2018-032:庵 方丈の庵を組みて長明は現世の無情を書き残したり 2018-033:検 オンラインで検査結果をチェックする 「やややや、全部正常値なり」 2018-034:皿 皿一枚割れたくらいでお菊さん死ぬほどのことないと思うわ(番町更屋敷) 2018-035:演 演奏はベルリン・フィルの「第九」なり 夢でもうれし弦の響きて 2018-036:あきらめ 引退のあきらめつかず小泉氏政界復帰の気配濃厚 2018-037:参 参拝を済ませてひきしおみくじの「大凶」にぐんと力湧きくる 2018-038:判断 ちょっとした判断ミスで逃したり待機していし株の売り時 2018-039:民 モンゴルの旅の土産にいただきぬ どてらのような民族衣装 2018-040:浦 海風に冬も緑が瑞々し三浦半島大根畑 2018-041:潔 潔く負けを認めるふりをして心の中の炎鎮める 2018-042:辺 春浅く流れはじめし川の辺にすみれ一輪ひそやかに咲く 2018-043:権 女だけの特権なりと思いいし涙このごろ男も流す 2018-044:ゴールド コマドリが好みていつも食べにくるマリーゴールド、金の花びら 2018-045:承 「了承」とひとことだけの返事来る息子にあてた長きメールに 2018-046:沖 日の暮れて三つ四つと数を増す波に揺られる沖の漁火 2018-047:審 演奏を終えて審査の結果待つ二分に一年分の緊張 2018-048:凡 凡人の凡たる所以「平凡」と言われることを断固拒絶す 2018 -049 順 「順調な回復です」と言われたる手術の後がチクチク痛む 2018-050:痴 音痴だとささやかれても気にせずに歌いあげたり「昴」のさわり 2018-051:適当 加齢性体力低下にいつよりか「テキトー」が「適当」の同義語となる 2018-052:誠 暖簾にも〈誠〉の文字を染め抜けり新選組が贔屓の店主 2018-053:仙 仙人の心境になり見わたしぬ食料となる霞一面 2018-054:辛 辛口の歌評をぐっと受け止める 言われてみればその通りなり 2018-055:綱 綱渡りのような暮らしも長くなり夫も子もあり孫もまたあり 2018-056: 核心は空洞にしておくべしと河野短歌の「ドーナツ理論」 2018-057:純 すくなからず不純な動機で始めたる短歌いつしか親友となる 2018-058:門 桜にも紅葉にもまた華やげり乾門へと続く砂利道 2018-059:州 冷え著るき日本の冬の宝物、炬燵、番茶と紀州のミカン 2018-060:土産 次々と来し台風の置き土産緑のままで散りし銀杏は 2018-061:懇 仕事場の懇親会で歌いたりひとつ覚えの「いい日旅立ち」 2018-062:々 晴れ時々曇りの予報裏切りて土砂降りの雨舗道を洗う 2018-063:憲 十七条の憲法制定せし太子福沢諭吉にとって代らる 2018-064:果実 八年後果実をむすぶ樹になれと誕生記念に柿の苗買う 2018-065:狩 イチゴ狩り畑一面に甘き香のただようなかに過ごす二時間 2018-066:役 娘としての役目を終えて二十年 母の思いが今ならわかる 2018-067:みんな 「友だちはみんなもってる」と子が言えば「みんな」はふつう三人くらい 2018-068:漬 ぬか漬けが好きな夫に毎朝を胡瓜を漬けて茄子も漬けたり 2018-069:霜 霜柱たちて浮く根を沈ませて麦踏みをしき祖父をならびて 2018-070:宅 宅配の食材一式開梱しゲームのように食事を作る 2018-071:封 本心に封印をして握手する 我に勝ちたる試合相手と 2018-072:レンタル レンタルの喪服一式届きたり 何が何やらわからなぬうちに 2018-073:羅 正義など認めさせない「羅生門」 生き抜くことを第一として 2018-074:這 這い這いのコツがわからぬみどりごががんばるほどにあとすざりする 2018-075: 辻(佐藤紀子) 日蓮の辻説法を思わせるエネルギッシュな友の演説 2018-076:犯 犯人は昨日の私 ひと日経し今日の私はあずかり知らぬ 2018-077:忠 忠も孝も死語となりたるこの世にも萩が揺れおり月も出でたり 2018-078:多少 楽しみにしていし今日のハイキング多少の雨は誰も気にせず 2018-079:悦 誕生祝のカードに夫は〈ご満悦〉 孫の手作りなれば格別 2018-080:漁 朝の漁終えたる船が戻りくる エンジン音を低く抑えて 2018-081:潰 領収書虱潰しに確認すどこかで狂いし売り上げのシメ 2018-082:にわか にわか雨のがれて入る喫茶店アールグレイをゆっくりと飲む 2018-083:課 四十の課長がトシヨリに見えたりき十九歳の新人の頃 2018-084:郡 静岡県駿東郡に育ちたり「そうずら」などと言いならわして 2018-085:名詞 夫がわれを「オイ」と呼ぶときその「オイ」は固有名詞の響きを持てり 2018-086:穀 健康のためにと炊きし雑穀米 夫も私も持てあまし気味 2018-087:湾 亡き父が少年の日の泳ぎいし三河湾なり わが前にあり 2018-088:省 省略が多すぎて理解不能なり恋人たちの交わす言葉は 018-089: 巌 巖しきピレネーの峯めざしゆくツール・ド・フランス第九ステージ 2018-090:トップ ぺーサーに露払いさせ疾走すツール・ド・フランスのトップグループ 2018-091:勘 大人には真似のできない華のあり勘玄くんのふむ初舞台 2018-092:醤 味噌・醤油は昭和の味の基本なり 割烹着を着た母の思い出 2018-093:健 「健やかに育て」と父に名付けられ「健」はサッカー選手になりぬ 2018-094:報告 結婚の報告に来し若き友「来月はもう出産」と言う 2018-095:廃 バス路線廃止となりし村に行く電動三輪自転車馳せて 2018-096:協 協力は惜しみませんと言いし人盃を重ねて寝入りてしまう 2018-097:川 川の字に寝た日はとおく父母逝きて二画目の我一人が残る 2018-098:執 町内の祭りの執行委員さん押しつけられて夫は出かける 2018-099:致 悔やんでも致し方なし後になりよいアイディアが浮かびきたれど 2018-100:了 「了解」と返事は来しが何一つ進まぬままにひと月が過ぐ 寄り道 2018-110:無限大 無制限、無条件、かつ無限大 祖父母の愛はときに迷惑 以上 |